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Aのボート生活脱出作戦

8月になろうとしていた。妊婦は暑さに弱いと聞いていたが、川沿いは涼しく、わたし達のボートは木陰に停めてあったので、わたしは寒いぐらいで薪ストーブをつけようかと思うぐらいの日もあった。
外では仕事をしているのかどうなのか、いつもボート仲間達がたむろしている。ボートに住んでいるというよりは、外で暮らしているんじゃないかと思うぐらい食事も昼寝も歯磨きさえも皆外でしている。
皆さんのんきで平和だなあと思いながら、あれっと思った。ここ2日ほどWを見ていない。そう言えばAも愚痴を言いに来なくなったなあ。旅行にでも行ってるんだろうかと思っているとAがやって来た。
Aは妙に機嫌が良くて、これから役所の人がボートを見に来るから何やらわたしに協力して欲しいのだと言う。聞くと、役所にWがAを追い出すために暴力を振るって、ボートを放棄していなくなったと訴えたのだと言う。もちろんWが暴力など振るうはずもなく作り話なのだが、AはWがいなくなってボートのことは分からないので水も電気も使えないし、子供と暮らせる環境ではないのでボートに住むことは無理で、Wが帰って来たらまた暴力を振るわれるから今すぐにでも住むところが必要だと言ったのだそうだ。
WはAに協力して行方をくらましているので、もし役所の人が何か言ってきたら、ここ数日間見ていないと言ってくれとAに頼まれたのだ。
おお!ついに強行突破作戦でいくか。まあ、ズルいやり方だけど、水や電気を自由に使えないのは本当のことだ。それにしてもWはよくこの方法に賛成したものだなあ。
わたしが、これでWが警察のお世話になったり、彼の今後に響かないのかと聞くと、Aは自分が訴えたり、現行犯で捕まらなければWには何も迷惑はかからないだろうと言った。そして更に自分が家に住みだしたらWは風呂に入りに来たり洗濯などもしたりできるし、Aと子供のうるさい声を聞かなくても良くて、自由なボート生活を取り戻せるから、喜んで協力してくれたと言うのだ。
なんだかすごいなあ。
そしてAは極め付けにわたしにも「家に住んだら好きな時にお風呂に入りに来ていいのよ。」と言った。
むむむ。わたしもこれから子供を持つ身、水は今よりももっと辛抱して使わなければいけない。お風呂のお誘いはなんだかありがたい。っていうか、本当にどんな生活をしているんだか。。。
まあ、Wを2日ほど見かけていないのは本当だし、嘘ではないよなあ。と、協力することにした。

その日1日特に何も起きず、Aが言っていた役所の人は結局来なかったのだが、翌朝役所の人から連絡がありAは仮の住まいを与えられることになった。
キッチン、トイレとバスルームが共同の短期滞在型のアパートで、とりあえずダブルサイズの部屋に入れることになった。
ここで住宅の空きがでるのを待つことになるのだと言う。
Aの根性で、とにかくボート生活脱出成功だ。

Aのアパートは色んな事情で家を追われた人達が住んでいて、全員がイギリス人だった。国もちゃんと自国民の面倒を見ているではないか。
そしてWは大喜びでそこに通うことになった。通うと言うより、Aがいつも車で送り迎えしてくれるので、Wは王様みたいにしていればいいのだ。水汲みの心配をしなくても、エンジンの調子が悪くても、お風呂にもはいれるし洗濯も汚いのを脱ぎ捨てておいたらAがアイロンまでやってくれるし、狭い部屋に飽きたら、晴れて1人になったボートで好き勝手に暮らせるのだ。まさに天国のような暮らしだ。
と言うことで、WとAにまた笑顔が戻ったのだった。

ボート生活がまた平和になったと思ったと同時に、わたしは今度は自分達のことを考えていかなければと思った。あと2ヶ月ほどで、この狭くて不便なボート生活の中に赤ちゃんがやってくるのだ。
大変なこともあるだろうが、今から準備して望めばなんとかやっていける。実際にAは出産後1年間やってこれたのだ。しかも、ボートで育って大きくなった人達はたくさんいる。
わたしはどんなに大変な暮らしも、待ちに待った子供が産まれてくるんだと思うと乗り越えて行けると思った。
Aを見ていると、根性と努力、少しのズルさがあればどんな状況でも生きていけるような気がして、なんだか勇気が湧いてきた。
と言っても、このズルさっていうのはすごく簡単そうで難しい。少しでもズルい人間になれたなら、もっともっと楽に生きられるはずなのに。。。。
その時はそんなことすら考えもせずに、これから産まれてくる子供のことばかり考えて、わたしも旦那もワクワクしながら過ごしていた。
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清々しい季節がやって来た!と思ったら。。。

6月になり本格的に暖かくなってきた。日がとても長くなり、人々は毎日のように長い一日を楽しむようになった。テムズ川は太陽の光に反射されてキラキラと輝き、春に咲いた花が緑になり暖かい風の中で揺れていた。
わたしのツワリもすっかり消えて、嘘のように晴れやかな気分になった。お腹も少しだけ大きくなってきたのに気分がいいというだけで体も身軽になった気がして、ボートから岸にジャンプで飛び降りたり、キックボードで坂道を下ったりして旦那に何度も怒られた。

MAちゃんはこの月で1歳になろうとしていた。Aは彼女のために行きつけのパブで誕生会を計画していた。その話をするためにAがMAちゃんを連れてやってきたのに、話はまったく違う方向に行ってしまった。
Aが言うには、電気屋のSのロシア人の元奥さんは、娘を連れてボートを飛び出してからすぐにSを訴えて娘の親権を勝ち取り、養育費までもらい、国が援助してくれた家に住んでいるので自分も申し込んだら家を与えてもらえるかもしれないと言うのだ。
わたしもそれはいい考えだと思った。どう考えても、今の状況はAにもMAちゃんにも、そしてWにも良くない。
せっかく素晴らしい季節の真っ只中にいるのに、Aだけが幸せそうじゃないんだから、こうしていたら本当にもったいない。

しばらくしてAが今にも泣きそうな様相でやって来た。役所に住宅補助の申し込みに行って断られたと言うのだ。
Aは産休手当が終了したので、ナニーの仕事を再開していた。保育費が異常に高いので、小さいMAちゃんを一緒に連れて行って仕事をしていた。
役所の人が言うには、Aは仕事をしていて収入があったし、養育費も払う必要がない、そしていくらボート暮らしであろうとも住むところがあるので住宅補助は受けられないのだそうだ。
Aがいくら狭くて水もろくに使えず、料理もほとんどできない環境だと訴えても、そんなことはあり得ないし、第一今までやってこれたんだからこれからもできるはずだと言われたのだと言う。
確かにAの状況を目の当たりにしなければ、どんな暮らしをしているのか想像もつかないだろう。
Wが頻繁に水を汲んでくれたり、キッチンスペースを使いやすく改装でもしてくれたりなどしてもう少し生活できる環境にしてくれたらいいのだが、彼は究極の面倒くさがりなので、ボートは荒んでいくばかりだった。
それでも子育てをしながら仕事に行くA。どんなにがんばっても子供とWにお金は吸い取られていく。それでも家事も仕事もしなければいけない。役所に援助を断られ泣きたくなる気持ちも分かる。それでも、とりあえず住宅補助の空き待ちのリストに入れてはもらったが、家がなかったり、仕事が見つからなかったりして本当に困っていると役所が判断した人たちが優先なので、その順番はなかなか回って来そうもなかった。
AはどうしてSのロシア人の元妻が住宅補助をしてもらってイギリス人である自分が自国にいながらなんの援助ももらえないのか、Sの元妻は仕事もしたことがないのに、なぜ仕事をして税金を納めている自分がなにもしてもらえないのかと文句を言った。
うーん。ごもっともです。でも、ロシアもなかなか大変な国だし、いくら離婚してもS達の間には子供がいて、Sだって会う権利はあるだろうし、Sの元妻にロシアに帰って下さいと言うわけにはいかない。
いくらわたしが説明したところで、Aの訴えは変わらない。彼女は懲りずに役所に電話したり、相談しに行ったりを繰り返してはわたしのところにやってきて、同じようなことを何度も嘆いた。
その間、Wは相変わらずで、好き勝手なことばかりしてAを怒らせてばかりいた。
お役所さんよ、どうかAにも家を与えてくださいな。そうじゃなかったら、この清々しい季節にわたしは毎日Aの小言を聞く羽目になるんだよ。。。。
ボート仲間達が毎日本当に楽しそうに生きている中で、Aだけは少しも笑顔を見せずに文句ばかり言って過ごしていた。

そしてついに、我慢の限界に達したAはすごいことを思いついたのだ。

次回に続きます。

Wに泣かされる女たち

環境が人に与える影響ってすごいんだなあと、つくづく思った。テムズ川に来てから旦那はオシャレの欠片もないぐらいラフなオッサンに変身して、ビールの量も増えた。
毎日パーティーの中で暮らしているのかと思うぐらい賑やかだし、常に誰かがボートをノックしたりして出入りも激しかった。
カナルに比べてテムズ川は揺れが激しく、わたしはツワリが悪化して毎日船酔い気分で食べるどころか、話しさえできなくなった。
ある休日、朝から死にそうに吐気がするのでベットの中で動けないでいると、Wがノックしてわたしにコーヒーはあるかと叫んでいるので、いないふりをした。
Wは中にいるのは分かってるんだ!起きろー!と言いながらボートを揺らしてきたので、わたしはもうガマンできなくてなって、とりあえずドアからインスタントコーヒーを投げてやると、今度はお湯を沸かせとまたボートを揺らしてきた。
ダメだ、吐きそう。。。
わたしはヨロヨロしながらWに、お湯を沸かしてあげるから、ボートを揺らすのはやめてくれと頼んだ。すると、なぜだか泣けてきた。
妊娠してからホルモンのせいなのか、小さいことで泣きたくなってしまう。そこにツワリも手伝って、精神状態がすごく不安定だ。
わたしがいきなり泣き出したので、Wはビックリしている。そこにベビーカーを押しているAが通りかかって、どうしたのかと聞いてきた。
わたしはまさか、Wがボートを揺らして気分が悪くなったから泣いたとは言えず、大丈夫だと言うが、Aは普段言いたかったことがたまっていたのか、Wに聞こえよがしにわたしに言った。
「分かる。ホルモンのせいで泣きたくなるのよね。しかも周りは朝から酔っ払いばかりだし、毎日うるさいし、仕事して家事もしてるのに男達は酒飲んで騒ぐだけだし、泣きたくもなるわよねー。」
Wは聞いてるのか聞いてないのか、さっさとその場を離れ、Aは話し始めたら止まらなくなったのか、Wや彼女の生活の文句を言うと、今度は彼女がポロポロと涙を流し始めた。
えーっ!一体どうなってるのー!?
あたし、Aが大変なのはよくわかるけど、もう気持ち悪くて横になりたいんだけど、本当に立っていられない。

夕方になって旦那が帰ってくると、Wが自分のボートでみんなでパブに行こうと言い出した。川沿いのパブでジャズのライブをやるのだと言う。
わたしも気分転換に行きたいと思い、旦那は疲れたらいつでも休めるようにと、わたし達のボートで一緒に行くことになった。
天気がいいせいかパブは中も外も大賑わい。ボート仲間達はビールを買ってきてボートに座ったり、川沿いでいつものように遊んでいる。
わたしはジュースだが、なんだか気持ちがいい。
まもなくジャズの生演奏が始まった。名前も聞いたことのないバンドだがすごく上手で、ツワリも吹っ飛ぶぐらいに楽しい気分になった。旦那と本当に久しぶりに少しだけ踊った。
1時間ほどして、わたしは疲れてきたのでそのままボートに戻ることにした。自分の家がパブの真ん前にあるなんて、なんて便利だろうと思いながら。
わたしが中に入ろうとすると、テンションが上がりに上がったWが自分のボートからMAちゃんを抱きかかえてきて、自分の娘にジャズを聴かせるんだと言ってパブの中に連れて行こうとしていた。
「みんなー!見ろー!オレの娘だ!ファンキーガールだあ!」と叫んでMAちゃんを掲げている。MAちゃんはギャン泣きだ。その後をAが追いかけていて、「彼女は寝なきゃいけないのよ!高音も耳に良くないからやめて!」と言っているが、Wは聞く耳なし。
さすがのボート仲間達もやめろと言っている。
旦那が見るに見かねてWからMAちゃんを奪うと、Aに渡した。
Aは泣いている。「みんながパブで楽しんでいるときに、わたしはうるさい中でこの子を寝せなきゃいけないし、いつもひとりぼっちでこの子とボートにいるのよ。そんなことを少し言ったら、Wはこんなことして、わたしは一体どうしたらいいの?ただ黙って我慢しなきゃいけないの?」
ああ、そうか。わたしが旦那とライブを楽しんでいたときに、彼女はそんな思いをしていたんだ。確かにW、小さい子供を乗せたままここに来るのはどうかと思うよ。。。
わたしもAにつられて泣けてきた。普段はこんなことじゃ絶対に泣かないのに、Aと一緒にMEちゃんを抱きしめながら泣く。。。。
なんだかすごい光景だ。。。。
その横でWと旦那は大声で言い争いをしている。パブの外は人々が生演奏どころか、この狂ったやりとりを興味深々で見ている。
かわいそうなジャズ演奏者達。。。Wのせいで客はみんな外だよ。。。
さすがのボート仲間達も呆れて帰ると言い出した。旦那も仲間達をボートに乗せてさっさと引き上げる。
Wは朝までそこにいるんだと強情を張り、わたしはAとMAちゃんを残して行かなければいけなかった。Aは大丈夫だと言ってボートの中に入って行ったが、Wはまた1人でパブに戻った。そして、その後1人で暴れて出入り禁止にされてしまった。

帰り際、旦那はボートを動かしながら言った。「Wも狭い空間で毎日子供とAが泣く声を聞いてストレスがたまってるんだろうけど、今日はやり過ぎだったなあ。Wは酒を飲んで暴れたりはするけど、女、子供には酷いことするヤツじゃなかったんだけどなあ。」
そして旦那はわたしに聞いた。「なんでお前まで一緒に泣いたんだ?」
わたしが、泣いたのはわたしではなくてホルモンなんだと言うと、旦那は「は?」と言った。
「妊娠中と出産後はホルモンのアンバランスで感情的になったり、泣きたくなったりするんだって。わたしにはどうしようもできないことなんだよ。」
わたしが言うと、旦那は「冗談だろう。やめてくれよ。」と言った。
いえいえ、冗談ではありません。わたしだっていつどうなるか自分でも不安なんだから。
「ホルモンだけじゃなくて、環境が変わったら人も変わるんだよ。WとAみたいに。子供が産まれたら、わたし達も人のことは何も言えなくなるかもよ。」
わたしが言うと、旦那は自分は絶対に変わらない、と言い切った。
わたしは旦那の伸びきったTシャツと汚れた靴とジーンズを見て吹き出しそうになった。
旦那よ、環境が変わって一番変わったのはあなたですから。。。。

Wがいないボートコミュニティーは静かだった。MAちゃんはもう寝ただろうかと思った。はちゃめちゃな父親を持った小さなボートで暮らす女の子が、環境に左右されずにスクスクと元気に育って欲しいと思ったら、またなんだか泣けてきた。
なんだかなあ、もう、わたしもAも、そしてMAちゃんも、本当に朝から晩までWに泣かされた1日だった。

久しぶりのテムズ川

ちょうど一年前に離れたテムズ川にまた戻って来た。コミュニティーのメンバーは変わっていなくて、何隻かの新しいボートと仲間が増えていた。
旦那がどんなふうにしてまたコミュニティーの中にボートを止める場所を確保したか知らないが、わたしが仕事から戻ると一年前の時のようにコミュニティーの中のボートとボートの間にわたし達のボート、「ダイアモンド」が収まっていた。
わたしはさっそく仲間達と挨拶を交わした。彼らは一年前と変わらず、皆ビールを片手にたむろしていた。旦那もすでに酔っ払っているようで、カナルにいた時はそれでも少しは小綺麗で服装に気を使っていたのに、1日にしてジャケットやジーンズが泥かオイルかなにかで黒ずんでいた。どうやったらこんなふうになるのだろうか。。。?
Wがビールの缶を開けてわたしに差し出し、言った。
「おめでとうー!妊娠したんだってな!」
あ、ありがとう。。。でも、ビールはいらないよ。。。
「おいっ、子供ができると大変だぞ。毎日ギャンギャン泣くし、物は増えるし、寝れないし居場所はないし。人生最悪だ。幸運を祈る!」
と、Wは旦那に言った。
相変わらず自己中なWだった。
ちょうどその時、Wのボートから赤ちゃんがギャンギャンと泣く声がした。そうだ、Aに久しぶりに会いに行かなければ。
AとWの娘はもう10ケ月半ぐらいになっていた。あと2カ月ほどでもう1歳になるのか。早いものだ。

Wのボートに行くと、AがMAちゃんを寝かしつけようとしていた。わたしが中に入ると、Aは久々の再会とわたしの妊娠を喜んでくれた。
わたし達のやり取りにMAちゃんはなぜか泣き止んだ。産まれたばかりの頃は未熟児で小さかったのに、彼女は1歳前とは思えないほどに大きく成長していて、赤ちゃんらしく丸っこくて緑の目がガラスみたいに輝き、金髪のサラサラの薄毛で天使のように可愛いかった。
Aは彼女が毎晩なかなか寝てくれなくて、まだ2、3時間おきに起きて泣くのだと言って疲れているようだった。
ボートの中にはたくさんの赤ちゃん用品やらおもちゃなどが山積みになっていて、狭い室内が更に狭く感じ、ソファー兼用のベットの上以外の居場所はなかった。
ベットはダブルサイズで、そこで親子3人で寝ているのだという。(そして犬も時々布団に潜り込んでくる。) WもAもどちらかと言うと大きめサイズだが、小さい赤ちゃんがよく押しつぶされずに今まで暮らしてきたかと感心した。
Aは出来合いのシングルパックになっているミルクを使っていた。それを温めるでもなく直接哺乳瓶にいれてMAちゃんにあげていた。毎日のことなのでいちいち温める用のガスや電力を使っていたら、日々持たないのだと言う。粉ミルクはボートに湿気が多いから使えないので、携帯用の出来合いミルクを買うしかないのでお金がかかると言い、MAちゃんをお風呂に入れるために自分は週に一度しかシャワーを浴びることができないと言った。
その年の冬はテムズ川ですら氷が浮くぐらい寒くて川の流れが早かったので、ボートを動かして水を汲んだりすることができなくて本当に大変で、薪ストーブのススで黒ずんでいくMAちゃんのベビー服を見るのが辛かったとAは涙目になった。
うーん、これから子供を持つわたしにはかなり現実的で考えさせる内容ばかりだ。
それに加えてWは遊んでばかりで仕事も気が向いたときしかしないし、Aのサポートは一度もしないのに、家事など自分の世話は押し付けるし、スペースがないと言ってMAちゃんのおもちゃを外に全部投げ捨てたこともあったのだと言う。
もうWのことなので子供ができて少し落ち着いたと思いきや、全然変わっていないので、わたしはAに同情はしても驚きはしなかった。
それよりも、変なことですごく驚いた。
AがMAちゃんがお腹が空いた時のために買い置きしておいたスナックをWがいつも全部食べてしまうのだと言う。
Aは自分の娘のお菓子を食べてしまうWが酷くて信じられない父親だと言ったが、見ると、大人や大きい子供が普通に食べる「カール」に似たパフ系の味の濃いスナック菓子だった。1人用サイズだが、1歳前の子供に与えるには明らかにカロリーも塩分も高い。これを普通に与えているAに驚いた。
MAちゃんがとても好きで1人用を全部食べきるのだと言う。
ええっ!いいの?
わたし、子供を育てたことがないからわからないが、おやつにこんなものを与えちゃいけない気がする。
しかも、離乳食は全て瓶詰めのインスタント類を使っていて、温めもせずに食べさせるのだと言う。
ボートの充電がなくなると冷蔵庫の温度も低くなったり、冷凍庫もろくに使えないので離乳食を作って保存できないし、環境からいってインスタントで済ます方が衛生的にも安心できるのだろう。水やガス、電化製品が思うように使えなかったら、小さい子供を抱えて細かい調理や洗い物を毎日こなすのは大変だ。しかも、ミルクも離乳食も高くつくし、乳児用のスナックまで買っていたらお金が続かない。子供を空腹にさせるよりは安いスナックを与えている方がマシなのだろう。完全に悪循環だ。

その夜、わたしはなんだかショックで眠れなかった。この環境で彼女はなぜそれでもWといて、ボートで子育てを続けているのだろうかと思った。彼女はイギリス人だし、田舎に帰れば母親もいるではないか。子供のことを考えたら、こうして暮らしていていいはずがない。
まだWが彼女をもっと助けて一緒に乗り越えてくれるのなら話は別だが、ほぼ全部彼女が1人で背負っているのだ。
しかも、MAちゃんは10ヶ月にもなるのにハイハイすらしていない。ただ座っているだけだという。ボートの中が狭すぎて動き回ることができないのだろうとAは心配していた。
自分と娘が窮屈な環境で暮らしているのに、それでもWといるのには、彼女なりに何か理由があるのだろう。Aの心の奥底を何も知らないわたしには、彼女に何も言うことはできなかった。

わたしにも子供が産まれて、確かに生活はガラリと変わるだろう。Aとあまり変わらない状況で狭いボートの中で洗濯機も冷凍庫も、便利なものは何一つない環境で子育てをしていくのだ。
大変なのは分かっていた。でも、始まってみないと分からない。子供が産まれて旦那が、わたしが、もしかして豹変してしまうのかもしれないし、大変でも助け合ってなんとかやっていけるかもしれない。
何にせよ、これから授かる命をどんなことをしても守っていかなければいけないのだと思った。Aもそうやって生きていることだけは心から理解できた。

久しぶりに戻って来たテムズ川、複雑な気持ちでわたしは仲間達が騒ぐ声を聞きながら、ベットの中で眠れない夜を過ごした。
プロフィール

スカイ

Author:スカイ
イギリスで旦那と娘3人でボート暮らしをしていた生い立ちを綴っています。
家賃も地方税も無い自由な生活を選んだはずが、なかなか大変なボート暮らし。大好きなお風呂にゆっくりと浸かることができる生活を毎日のように夢見て、早くボート生活から抜け出したいと思いながら結局7年間を費やしてしまいました。
めちゃくちゃなボート仲間達との暮らしも今はいい思い出です。

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