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エンジン故障

2008年3月。この年の3月は暖かい日が多く、まるで春が早く来たようだった。水仙や桜のような花が咲きだし、テムズ川沿いはすでに華やかになりつつあった。
朝日、青空、夕日に照らされ、日に何度も色を変えるテムズ川を見ながら、わたしの気分も浮かれてくるはずだったが、エンジンが故障した。

速かった川の流れも落ち着き、いよいよ水を補給したりトイレを汲み取りに行くことができる。わたしは朝からはりきってバスルームやキッチンの掃除をした。水を汲む前に、ボートのタンクに残っている水で、できる限り掃除や洗い物をしておきたかった。
ダイアモンドが久しぶりに陸を離れた。ボート仲間達はわたし達のボートの場所を他の人に取られないように見張ってると言って、わたし達を見送ってくれた。
旦那は久々の移動で浮かれている。わたしもやはりボートの旅はちょっとした小旅行気分で楽しい。
そんな幸せな気分も15分ほどで崩れ去ってしまった。急にエンジンが止まってしまったのだ。
旦那が慌ててエンジンをかけ直すが、かかりそうでかからない。ダイアモンドはテムズ川のど真ん中に浮いたままで、ゆっくりと横向きになっていく。
わたしも旦那も焦った。大きい船が来たら、よけることもできない。
旦那はすぐにWに電話すると、Wは彼のボートですぐにやって来た。そしてダイアモンドを牽引してコミュニティのある場所に戻った。
え!?戻るの?
水も補充せずトイレも汲み取らないで戻るというのか。
確かに15分先はわたし達の停滞場所、2時間先は供給場所、牽引でどちらに行くかと言われたら前者だ。
その時、シャワーはまだ壊れたままだった。
エンジンの修理も誰かに頼んだら、直るまで何ヶ月かかるか分からない。
わたしは朝から掃除で、結構な量の水を使ってしまっていた。
トイレもほとんど使ってはいけない状態だ。最悪。。。
これからどうなるのだろうと、わたしは真剣に悩んだ。
それに比べて旦那はのんきなものだった。ANにエンジンの修理を頼んで了解を得たら、本気で安心しているようだった。
わたしは何かあるたびにいつも先のことまで予測して対策を考えるので、いい時もあるが、取り越し苦労も多い。旦那は困った事態が発生するまで心配しないでのんびりとしているので、時々、なんてお得な性格だろうと思ってしまう。
ANは素晴らしいエンジアだが、怠け者で、やると言ってから行動するまで非常に長いので、Wが文句を言っていたのを、わたしはしっかり覚えている。
ジムの契約がまだ残っているのでシャワーの修理はまだいいとしても、エンジンは早急に直してもらいたい。もう、お金払ってもいいから、なんとかしてよ、と思いながら銀行の明細書を見るが、ムリだ。やっぱり払うお金なんてない。。。

わたしの心配をよそに、ANは翌日の夕方、旦那が仕事から戻るとすぐに修理を始めると言った。
さて、エンジンはすぐに直るのでしょうか。

また次回に続きます。
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シャワー壊れる

冬の間、十分な暖房設備がなかったので、わたしと旦那はシャワーを浴びるのが恐ろしかった。まるで修行でもしてるかのように寒くて仕方がないのだ。ドライヤーも使えないので、濡れた髪のままで寝ると寒すぎて眠れない。
それでもわたしも旦那も仕事に行くので、いつも清潔にしておきたかった。
ちょうどその頃、近くのジムで入会料無料のキャンペーンをしていた。半年契約だと1年契約より割高だが、半年分の契約をした。
地域のコミュニティセンターが運営しているジムだったので、毎月の値段も手頃だったが、それでも二人分だとなかなか痛い出費だった。しかも、ジムはほとんど利用せず、シャワーばかり浴びに行っていたので、それを考えると高くついていたと思う。

そんなわけで、冬の間わたしはほとんどボートのシャワーを使わなかった。冬の間中ボートもあまり動かすことができないので、ジムの利用は水も節約できるし、本当に助かった。
3月に入って少し暖かくなって来たので、わたしはこのままジムの契約が終わっても、ボートのシャワーで乗り切れると思っていたある日、思いもよらないことが起きた。
わたしが仕事から戻り、バスルームに行くと、シャワーが壊れているではないか。壊れているというか、壊された? シャワーのホースが壁から外されていて、パイプがむき出しになっている。しかも、プラスチックのパイプがわざと叩き割ったかのように割れている。
シャワーに何が起きたのか旦那に聞くと、ボート仲間の一人がどうしてもシャワーが必要で、使おうとしたら水が出なかったのだという。キッチンの水道は普通に使えるので、旦那はシャワーのパイプに何か以上が起きたのかと思い、ホースを取り外したら、勢い余って壁に埋め込まれたパイプごと割れてしまったのだという。
旦那、大雑把なのは知っているが、ここまでやるとは。。。
どうせ、ホースがはずれないので、無理やりもぎ取ったのだろう。。。
それで、これはいつ直るのかと旦那に聞くと、パイプはそんなに高くないから、すぐに買って、一週間以内には直るだろうと言った。

わたしは、運良くジムに入会しておいて本当に良かったと思った。なぜなら、シャワーは一ヶ月以上たってもそのままだったのだ。
パイプとシャワーホースは準備してあるのに、結局大ががりな修理が必要だったため、ボート仲間の一人が直してくれることになった。
ボート仲間達は、電気屋、大工、エンジニア、アーティストなど、色々な人がいて、貧乏などしなくても良さそうなのだが、自営業のため、やりたい時に仕事をする程度の人達がほとんどだった。やりたい時と言っても、本当にいつ仕事をしているんだろうと不思議になるぐらい遊んでばかりいる。
そんなわけで、ボート仲間に何かの修理をお願いしても、やってもらうまでの時間が長い。皆お金をもらわず、ビール何本かを受け取るだけで、ほとんど無料でやってくれるので、あまり強くは言えない。
わたし達も、どこか壊れるたびに修理屋を呼べるほどの余裕はないので、待つしかない。
この「待つ」という作業のために、わたし達は何度も振り回された。

結局シャワーはジムの契約が終わるギリギリ前に直った。
焦った旦那が、何度か修理をお願いして、やっと修理屋は重い腰を上げてくれた。
ありがたいのか、なんなのか。。。。
それから旦那は、何かが壊れたら、ただ仲間に修理してもらうのではなく、一緒に手伝って学び、自分でも修理できるようにした。初めのうちは仲間に手伝ってもらうが、そのうち自分でできるようになる。そうなったら、もう誰かに頼んだり、長い期間待たなくてすむ。

ボート生活はいろんなところが壊れたり故障する。こっちが直ったと思えば、今度はあっち。いつも構ってもらいたい子供のようだ。
金銭的に余裕があれば、いいクオリティーの物が買えるし、修理屋も呼べる。貧乏ならとりあえず安いもので済ませるので、すぐに故障する。だからまた、仕方なく安い物を買う。修理屋も呼べないので、仲間がやる気になるまで待つしかない。
いつになったらこんな生活から抜け出せるのだろう。

わたし達のボート生活初めての春は、故障、壊れるの連続で始まった。

友人を怖がらせる

わたしと友人は朝食の後、天気がいいので近くの国立公園などに行き、友人は海鮮レストランでランチをご馳走してくれた。
レストランで食事など、ボート暮らしを始めてから一度も行っていなかった。というか、そんなことすら頭にないぐらいに毎日ギリギリの生活だった。少し友人とレストランで食事をするというだけで、わたしには最高の贅沢に思えた。
しかも牡蠣などの新鮮な魚介類を堪能して、まるで中流階級の仲間入りをしたような気分にもなれた。
夕方からはまたボートに戻り、友人は缶ビールを飲みながらボート仲間達が戯れている中に、何の偏見もなく溶け込んでいた。
テムズ川に映る美しい夕日を見ながら、ボート仲間達とどうでもいいやりとりをして、友人はその時が最高に楽しかったと言ってくれた。
そうやって言ってくれると、特にわたし事ではないのに、なんだか家族を褒められたみたいに嬉しい気持ちになる。

翌日友人は他の場所に移動のため、その夜が最後の夜だったので、世話になった旦那にビールを12本も買ってくれた。
旦那はすでに自分のためと友人のためのビールを購入していたので、その12本はボートの入口のドアの外の端っこに隠しておいた。冷蔵庫は電気代がかかるので、冬の間冷やせるものはいつもそこに置いておく。外なので、ビールなどはよく冷える。
東京からの客人がよっぽど嬉しかったのか、Wを筆頭にみんな友人の前でバカなことばかりしている。わたし達がボートの中に入ってしまってもまだしつこく騒いでいた。

その夜、わたしと旦那と友人は平和に眠りにつこうとしていた。外ではまだ仲間達が騒いでいる。
少しして騒ぎ声が大きくなってきた。誰かが冬のテムズ川に落ちたらしく、笑い声や叫び声で異常なぐらい騒がしくなった。
友人に声をかけたが、かなりうるさいのに友人は「ちょっと怖いけど大丈夫。」と言ってくれた。
旦那がうるさすぎるから、彼らに言いに行くと言いかけたとき、Wの叫び声が聞こえた。わたし達を呼んでいるらしい。
Wは叫びながら、今度はボートを揺らしてきた。
その時友人はラウンジに一人で寝ていて、ラウンジとわたし達の寝室の間にはキッチンやバスルームがあるので、狭いボートの中とはいえ、一人ぼっちで大波にでも出くわしたかのように揺れるボートの中にいるようなものだった。
そして、Wはよりにもよって、友人が寝ているラウンジの窓を激しく叩きだした。
すぐさま旦那がラウンジに行き、窓越しに「何の用だ!客がここで寝てるんだぞ。あっちに行け!」と怒鳴ると、Wは「川に落ちてタバコが濡れてしまった。タバコくれー!」と叫んだ。
旦那は窓を少し開けて、隙間からタバコ一箱を押し込むようにしてWに渡した。
「もうあっちに行け!これ以上騒ぐな!」と旦那が言うと、Wは騒ぎながらタバコを取って行ってしまった。
わたしも一緒になって、あっちに行けと追いやった。
その後、一応離れたところでW達は遅くまで騒いでいた。
友人は相当びっくりしたらしく、またWが来るのではないかと心配しながら眠ったのだ。

翌日の朝、旦那が外に出ると、入り口に置いておいたビール12本が全部消えていた。わたしと友人がどこに行ったのだろうと話していると、旦那が思いついたようにボートを飛び出し、Wのボートを叩いて彼を呼んだ。
Wは寝ていたが、旦那はお構いなしに彼を叩き起こした。そして、ビールを全部飲んだだろうと問いただした。
わたしと友人は遠くから見守る。
Wが、もう店が閉まっていたからそれを飲んだと言い、今日中に全て買って返すと言った。
旦那、完全にキレる。
「あれは、オレ達の友達が、礼にと言ってオレにプレゼントしてくれたものなんだ!買って返してもらっても意味がないんだ!彼女が買ったビールでなければ意味がないんだ!」
Wは「ビールはビールだろう。何が違うんだ。」と不思議そうな顔をしている。
旦那はとりあえず謝るWに、しつこく文句を言っていた。
友人はわたしに、気にしていないので旦那にそう伝えてくれと言ったが、旦那は友人に申し訳ない思いでいっぱいだったのだ。
今までビールは取られたこともないし、見えないように隠してあったつもりだったが、それを見つけて、しかも全て飲んでしまうW達はハイエナのようで恐ろしい。

友人はすごい体験もしたけど楽しかったと言ってボートを後にした。
わたしに泊まり賃だからと言って、いくらかのお金まで置いていった。
そして、毎日すごい環境の中で暮らしているわたしに同情してくれた。

その日の夕方、Wがビールを12本買って旦那に渡しに来た。Wは昨晩わたしの友人に怖い思いをさせて、ビールまで飲んでしまったことを謝りたいと言った。
でも、もう友人はそこにはいなかった。
友人は久しぶりにWと再開して、Wに大歓迎されたので嬉しかったが、大歓迎の裏にはビールやタバコをくれる人という下心があったのだと思い、本当はがっかりしていたのだ。
Wはわたしに、友人は楽しい思いをして帰っていったのかと聞くので、「怖い思いもしたけど、楽しかったって。」と言うと、そうか、と言って自分のボートに戻って行った。

その日の夜、仲間達は妙に静かだった。二日酔いで疲れていたのか、それとも反省して落ち込んでいるのかは分からないが、静かすぎてそっちの方がわたしは怖かった。
そしてわたしと旦那は、友人に気もお金も使わせてしまって、たった一人の客ですら気持ち良くもてなしてあげれなかったことをいつまでも悔やんだ。

初めてのお客様

ダイアモンドに初めて寝泊まりしてくれるお客様が来た。
わたしの友人が東京から遊びに来てくれたのだ。わたしは彼女が来るのをとても楽しみにしていた。気心が知れた友人がいるのはとても心地がいい。
旦那もわたしの友人が来るのを楽しみにしていた。彼女は大のビール好きで、旦那もビールが大好きなので、飲みっぷりのいい彼女をとても気に入っている。
わたしはといえば、お酒は嫌いではないが、飲みっぷりはあまり良くないので、旦那の飲み相手にはちょっと役不足だ。

友人は真冬の2月に来るということで、わたしは天気や気温を心配していたが、彼女の来た週はとても天気が良く、日中は暖かかった。

友人は日本からたくさんお土産を持って来てくれた。本当にいつもそうだが、彼女がイギリスに来ても、わたし達が日本に行っても、彼女はわたし達に本当に良くしてくれる。わたしは甘えっぱなしだ。
彼女が持って来てくれたお土産の中に、日本の免税で購入したタバコがあった。彼女はボート仲間何人かに、挨拶も含めてタバコを一箱づつあげた。そして、残りを旦那がもらった。
彼女は前にロンドンに来た時にWに会っていたし、色んなところに出歩いて、様々な状況に遭遇してるので、ちょっとワイルドなボート仲間達に会っても大丈夫なようだった。
Wは友人の顔を見るなり、さっそく大張り切りで目立とうとしている。ハグをしたり大声で冗談を言ったり、セクハラに近い発言をしたりして、さすがの友人もかなり引いていた。
Aも友人の顔を見に出てきた。
あれ、おかしい。
Aはいつもどうでもいいような格好をしていて、メイクもせず、髪もボサボサなのに、その日はしっかりメイクしてちゃんとしている。
わたしがどこかに行くのかと尋ねると、Aは「どこにも行かないわ。休日だからゆっくりするの。」と言った。
よく見るとAだけではない。Wも他の仲間達もいつもよりキレイなシャツなどを着ている。
もしかして、日本から遥々やって来るわたしの友人のために皆少しめかしこんだのだろうか。。。

少し暖かいと言っても冬。長旅で友人も疲れていたのでボートの中で休むことにした。
日が落ちて気温が下がる前に友人はシャワーを浴びることにした。彼女はわたしからボート生活の話を聞いていたので、水を大事に使ってシャワーを浴びてくれた。
それでもわたしは彼女がシャワーを浴びている時の水の流れる音を聞きながら、気が気ではなかった。流し続けて水がなくなったら、彼女の滞在中に水がないので顔は洗えないだの、手も洗えないだのということになる。
いつも2月辺りは川の流れが早く、わたし達は水の補給とトイレの汲み取りに行けないままでいたのだ。
でも、考えてみたら、せっかくお土産をたくさん持って訪ねてくれたのに、水は思うように使えない。ヒーターも弱いので寒い。ボートは揺れるし、外では男達が騒いでいる。なんて酷いおもてなしだろう。。。
しかも、彼女が寒がっているので、夜にヒーターの温度を上げたらガスが切れてしまった。ガスはボンベごとマリーナか、ガス屋に持って行って交換しなければ行けないので、ボートで行くか車で運ばないと重くてムリだ。
結局彼女は寒いまま朝を迎えなければならなかった。
今でも彼女は骨の芯まで寒いと思ったのは、産まれて初めてだと笑う。。。ごめんね、本当に。。。

こんなんでは、友人はもう2度と遊びに来てくれない。せっかくのイギリスでのボート生活が酷い思い出で終わってしまっては悲しい。
それでも翌朝、旦那は張り切って友人にイギリスの伝統的な朝食を用意してくれた。トーストにソーセージ、ベーコン、目玉焼き、そしてベークドビーンズ(インゲン豆のトマト煮)。
友人はとても喜んでくれた。

これで、少しは良い思い出が残るだろうと思いきや、その夜友人を怖がらせてしまうような出来事が起こった。

次回に続きます。

仲間として分かり合う?

ボートコミュニティーに移動してからまだ1ヶ月半くらいだが、ほとんどのボート仲間達はいつ仕事に行き、どうやって生活費を稼いでいるのか不思議なくらい、朝から夜遅くまで外で仲間達とツルんでいる。
申し込むのが面倒なのか、住所がはっきりしてないからか分からないが、生活保護を受け取っている人は一人もいなかった。
確かに今まで1、2度誰かが仕事に行ったと言っていなかったことはあるが、それで足りるのだろうか。
わたしと旦那は二人でフルタイムで働いてもギリギリなのに、本当に謎だ。
Wに関してはAが毎日働いてなんとかしているようだが。と言うか、ヒモ?
彼らが言うには、人生は短いのに毎日、朝から晩まで働いてなんになる。生きれるだけの少しの金があれば、毎日楽しく暮らせるのだそうだ。
わたしは考える。本当にそうなのだろうか。
年に一度は日本に帰りたい。美味しいものも食べたいしオシャレもしたい。何かのために貯金だってしておきたい。わたしはやはり、仕事をして生きていた方が安心する。
色んな生き方や考え方がある。互いに仲間として分かりあっていればそれでいいだろう。

そんなふうに思っていたある日。わたしは休日でボートの中でダラダラとしていた。外ではいつものようにボート仲間達が騒いでいる。
いつもより興奮しているようだが、わたしはあまり気にしなくなっていた。
「おいっ!お前は日本人だろう。魚をさばいてくれ!」
いきなりWがやって来た。
何の根拠があって日本人だから魚をさばかなければいけない。
「さっき釣れた魚をさばくことにした。今日のランチは寿司だ!寿司を作ってくれ!」
またWがめちゃくちゃなことを言っている。
わたしは、寿司は寿司屋で食べるから自分で寿司は作らないと言った。ちなみにご飯がなくては寿司は作れない。それは刺身だ。
ああ、本当にバカバカしくて付き合ってられない。
Wはわたしに断られたので、自分で魚をさばくから寿司ができたら呼びに来ると言って行ってしまった。
わたしは面倒なので出かけることにした。
外に出ると、男達が魚をさばいている。しかも、プラスチックのまな板を地面に置いて、サバイバルナイフでだ。
魚の内蔵を持って、一人の男が仲間の一人を追いかけ回して騒いでいる。Wは魚を切りながら川沿いを歩いている人達に、一緒に食うかと聞いている。散歩中の人達は怪訝な目で見ながら、大回りで通り過ぎている。
外に出たわたしを見て、Wが言った。
「寿司だ!食うか?」
だから、刺身だってば。。。って言うか、生魚の切り刻み?

わたしは丁重にお断りして、さっさとその場を立ち去った。
互いに仲間として分かり合うどころか、彼らの行動は理解不可能だし、分かりたくもない。
これでは地域の住民からも白い目で見られるではないか。

わたしもあの仲間の一員なのだと思うと、なんだかとても虚しくなった。

私書箱

ボート生活でよく、郵便物はどうするの?と聞かれる。実はわたし達はボートに越して来てから、住所はまだ前のフラットに置いたままだったのだ。
そのときの管理人がいい人だったので、しばらく郵便物を預かってもらって、週に一度のペースで回収しに行っていた。
でも、ボートから電車で1時間半ほど離れた場所だったので、回収しに行くのも大変になってきたし、大家がいくらいい人でも、いつまでもそこに住所を置いておくわけにはいかなかった。
ボート仲間達に聞くと、両親や兄弟の家が近い人達は、郵便物がそこに届くようになっていたり、彼女の家だったり、職場を使っていたりした。
その中で、何人かはメールボックスなるものを使っていた。私書箱だ。
半年払い、1年、3年払いがある。利用期間が長いとその分割引がつく。いつも思うことだが、貧乏人が損をするシステムだ。
旦那はボートがあるところから一番近い街にある私書箱を借りると言ったが、わたしは旦那かわたしの職場に近い方がいいと提案した。ロンドンのカナルに移動したら、そっちの方が便利がいいからだ。
でも、旦那は大きい郵便物が届いたら、運んで来るのが大変なのでボートから近い方がいいと言った。確かに、これから購入予定に入っているものは、発電機やボート用のバッテリーなど、電車とバスを乗り継いで持って来るのにはムリがある。
考えた末、ボートから一番近いと思われる私書箱を借り、半年コースを利用することにした。これで自動的にカナルに移動する夢は半年遠のいたと思われた。
半年分と言っても、それなりの利用料金なので、銀行をマイナス以下にしてしまった旦那は払いきれず、わたしが払うことになった。旦那は次の半年分を払うと言う。半年分ではなく、1年分払うと言って欲しかった。。。。

「旦那とケンカ」の後、旦那はわたしに彼のキャッシュカードを託した。無駄使いしない彼なりの方法だと言うが、あまり意味がないように思えた。
彼が必要なときだけ、わたしからカードを受け取ってお金を下ろしに行くのだが、必要なときが多すぎるのだ。理由も、昨日Wがビール代を出したので、今日は自分が買う番だとか、Wが前回発電機の灯油代を出したから、次は自分達の番だとか、おいおい、わたし、全然旦那の金銭管理者になってないではないか。旦那が仲間達に迷惑をかけてはいけないと思い、わたしもついつい彼にカードを渡してしまうのだから。
ということで、昔ある雑誌で見た方法を思い出した。その月に使う分だけを下ろして、封筒に分けて使うのだ。食費代の封筒。生活用品の封筒。ガスや灯油代の封筒。交通費の封筒。コインランドリーの封筒。そして娯楽、交際費の封筒。
使ってしまったらそれまで。次の月まで待つしかない。残ったら、それを少しだが貯金に回す。これで金銭感覚が少しはマシになりそうだ。
旦那もなんだか言われた通りに封筒から必要な分を取り出して、お釣りはちゃんと戻してくれる。どれぐらい続くかは微妙だが。。。

少しでも貯金しておかないと、これから必要なものはたくさんあるのだ。私書箱を借りる分だって、わたし達の計算外だったが、必要なのだからどうしようもない。
いつになったら、次の出費の心配をしないで暮らすことができるのだろう。
食費代、生活用品などと書かれた封筒を見ながら、わたしはため息をついた。

状況一気に変わりすぎ。。。

Wが自分だけ停滞料のない領域に彼のボートを動かしたのがきっかけで、Wと旦那がイヤミなやりとりをして、旦那はその夜にカナルに移動すると決めた翌日の朝、わたしと旦那は仕事に行く準備をしていた。
まだ朝の6時過ぎだった。ボート仲間達はまだ寝ているはずなのに、誰かがボートをノックしているではないか。
「グットモーニング!ブラザー!」
Wの声だ。朝の6時になんの用だろう。しかも、呼び方が妙に丁寧だ。怖い。
旦那が対応すると、Wは外に出てみろと言う。
旦那は半分イヤそうに外に出ると、Wが言った。
「昨日、みんなでボートを詰めあってお前のボートの場所を確保したんだ。見ろ、あそこだ。」
わたしも外に出てWの指差す方を見た。
本当だ。ボートが2隻、3隻と横にならんで、いかにもがんばって詰めましたというようにボートが連なってる途中に、ポツンと隙間があった。あれならダイアモンドが入り込むことができる。
前の晩、外がなんだか静かだと思ったら、みんなで地道にボートの場所を詰めあっていたのか。
その努力は認めるが、Wよ、残念ながらわたし達は今日から違う場所に移動して、もう少しでカナルに出るんだよ。ごめんよ。
と、わたしが思っていると、「誰かに場所を取られる前に、すぐにボートを移動しろ。」と言うWの言葉に、旦那はさっさとダイアモンドにエンジンをかけて移動しようとしていた。
ちょ、ちょっと待ったあ!わたし、焦る。
「カナルに行く話はどうなったの?」
わたしが言うと、旦那は「もちろんカナルには行くよ。そうしないと、絶対に後悔するからな。でも、今は、Wの好意をムダにできないだろう。」
は?本当に今だけ?その今ってどれぐらい長いの、ねえ?

5分も立たないうちにダイアモンドは、コミュニティの隙間に収まっていた。
「よし!今日はパーティーだ!今日は仕事を早めに切り上げて戻ってこい!」
Wが大声で言い、「ブラザー!オレ達はいつも一緒だ!」と旦那とWは肩を抱き合っている。
朝っぱらから、何これ?
って言うか、わたしは何のために前の晩、あんなに浮かれてカナルでの生活を夢に見たんだろう。これじゃあ、Wだけでなく、わたしは旦那にも振り回されっぱなしではないか。
いい加減にして欲しい。
一言何か言ってやろうというところで、Sが彼のボートから出て来た。彼の出勤時間も早い。
Sは、わたし達が来たことが嬉しいようだった。わたしと旦那に、いつでも困ったことがあったら、自分はここにいると言ってくれた。
WのボートからAも出て来て、わたしが近くにいるのはとても安心すると言った。
わたしは言いたかった文句も忘れてしまい、なんだか今度は「ありがとう。」とみんなに礼を言っている。
状況一気に変わりすぎ。。。

とにかく、こうしてわたし達は、いいのか悪いのか、ボートコミュニティーに完全に仲間入りした。
彼らは楽しいからここにいるのか、それとも不安だからこうして仲間達といつも一緒なのか、たぶん彼らにも分からないのだろうけど、幸せそうに生きている。
旦那はボートに住み始めてから、毎日子供のように楽しそうだ。わたしも、仲間達がいるから安心してボート生活を送っている。
人生にこんな時間があってもいいだろう。。。だぶん。
カナルに行きたいという想いは諦めないが、もう少し彼らに付き合ってもいいかと思いながら、わたしは仕事に向かった。
プロフィール

スカイ

Author:スカイ
イギリスで旦那と娘3人でボート暮らしをしていた生い立ちを綴っています。
家賃も地方税も無い自由な生活を選んだはずが、なかなか大変なボート暮らし。大好きなお風呂にゆっくりと浸かることができる生活を毎日のように夢見て、早くボート生活から抜け出したいと思いながら結局7年間を費やしてしまいました。
めちゃくちゃなボート仲間達との暮らしも今はいい思い出です。

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